目が覚めたら、それはもう惨状だった。どれくらい酷いのかということはもう名状し難いので、3つ、この状況のヤバさを象徴する要素を次に3つ挙げるので、できれば皆さんにはこの状況の悲惨さを、身をもって体感してほしい。



@ 酒瓶の散乱する部屋の他人のベッドで目覚めた昨夜の記憶のない私
A 全裸で隣に横たわっている同僚の男
B 部屋のあちこちに散乱している避妊具

以上


 ヤバい以外の何物でもない。言い逃れできる要素がない。いや今更何を誰に言い逃れしようというのかもわからないし、よしんば昨夜の自分が今朝の自分に言い逃れをしようと言うのだとしても、これは、どう考えても無理である。無理以外の何物でもない。そして、例えば、これが例えば、隣でイビキをかいて、あまつさえケツまで掻いて寝こけている男が、スティーブンさん、クラウスさん、レオ君、ツェッド君あたりだったとすれば、これはもう万事オーケーなのだが、いや別に万事オーケーでもないけど、こいつだけは、こいつだけは嘘だと言ってほしい。
 隣に寝ているのは、白髪の筋肉ボケ。そう、皆さんもご存じあのボケである。こいつに比べればゆきずりでどんな同僚とヤッても万事オーケー☆ウフフ☆なレベルのあのボケである。その辺に転がっている酒瓶に聞きたいのだが、なぜこいつなんだ。いや、排卵日だったとか忙しすぎて自慰もままならなかったとか、そういうパターンだったとしても、つまり昨日の晩の私が欲求不満のクソビッチだったとしても、こいつはないだろう!?
 衣服の代わりに倦怠感が身体全体を包み込んで離さない。隣の全裸の男の腰に巻き付いてたタオルケットを奪って体に巻き付け、バスルームへ向かう。バスルームのドアを開けた瞬間、「ヒッ!?」と声が漏れた。風呂の床にも落ちた避妊具、そして、気のせいでなければ、自分の、太腿を滴る、白の。
「うわああああああ!?」
「うるせえええええ!!」
 ベッドからザップがこちらに叫んだのに反射的に振り返ると、今まさに起きたのであろうザップが目を見開いてこちらを見ていた。

「は??」





「あーもう最悪だよテメーなんでお前なんだよもっと他に女いただろうがよ俺〜!?」
「ホントそれこっちの台詞だわボケナス。あーなんでアンタなのよホント最悪もはや死ねるなら死にたいしでもそれは癪だから今すぐザップ死んで。」
「ハァアアア!?いい加減にしろよテメーこうなったら同期でも殺し合い上等だからなこの雌ザル!」
「あーあーうるさい頭に響く…二日酔いなんだから静かにしてサル。」
「んだとコラァ!」
ザップのまともに洗ってなさそうな寝間着を勝手に拝借して着ていると目の前のサルは自分の服にもかかわらず私の首根っこを掴んでくる。いや、伸びるの自分の服だからな?
 私の首から手を放して舌打ちをしてから、隣で煙草を吸うザップ。褐色の肌に白髪、別に顔が悪いわけでもないし、筋肉もあるし、身長も高いし、黙ってたらそれなりに…。
「お前って案外乳デケーんだな。」
 それなりにクソである。葉巻を吸いながら私の胸を鷲掴みにするその男は、どう考えてもクズである。ザップの腕を捻り上げてもう片方の手で顎を殴る。「ッテェ!!」と喚くザップから葉巻を奪う。
「…ンだよお前、吸うのか。」
「…たまに、一人のときに吸うくらいだけど。ていうかえらく臭いの吸ってるのね。」
「お前ホントウルッセーな!」
 二人で葉巻をふかして同時にため息をつく。冷静になってあたりを見回すと、埃をかぶった家具やゴミが散乱していた。
「ていうかさ、アンタ一応家持ってたのね。」
「んぁー…まぁここもオンナの家みてーなもんだけどな。金は女が払ってるだろーし。払ってなきゃ滞納してんのかな。つか忘れた。どっちにしろただの荷物置き場みてーなモンだよ。」
「最低だな。」
「その最低男と寝た女は誰だよ。」
「アンタも記憶ないくせに偉そうに何言ってんのよ。」
 相変わらず最低だなこの男。なんでこの男が女のところを徘徊できて小遣いを貰えるのかわからない。金を払われてもこの男とセックスしたいとは微塵も思わないが、世の中の綺麗なおねいさんどもは顔がよければ何でもいいのか。ケツの穴まで毛が生えていそうなこの男のどこがいいのか。この前はアンジェリカたんだったなんだかの連絡先を教えてもらえずに延々と店に通うだけ通って激太りしていたのに。お前のいいところはボディーと顔だけだろうが。そう思えば、ますます何故コイツと寝たんだ昨晩の私は。布団で頭を覆って、真面目に、真剣に、夢なら覚めてほしいと思った。
「つかテメーマジで覚えてねーのかよ。」
「覚えてないわよ…ツェッド君とレオ君とアンタと飲んでたことくらいしか。」
「あー…なんかそうだった気がするな……。んであの魚と陰毛がすぐに潰れたんだったか…?」
「だった気がするわね。で二人で飲みなおそうってなったんだっけ…?」
「…いや…なんか…別の奴がいた気がする…?」
「何アンタ適当なこと言ってんじゃないわよ。そんなわけ…?」
脳内の擦り切れたビデオテープを巻いたり送ったりしているうちに、チラチラと映る人影があった。頭痛が邪魔をして誰が何を言っていたのか思い出せない。誰か…確かにいたような気がする。その人が何か言っていたような気がするけれど、それも思い出せない。相当飲んだんだろうけど、どこで、誰と、どうやって飲んだのかも、こいつとどういう流れでそうなったのかも、まるっきりそこだけ記憶が抜け落ちたように思い出せない。
「あー思い出せねー。もういいわどうでも。つか腹減ったわ。どうせお前非番だろ今日。飯行くぞ。」
「どうでもよくないけど確かにお腹はすいたわ…。近場に何かあったっけ。」
「さぁ…この通りの近くなんか何でもあんだろ。オラ、さっさと用意しろ。」
 はいはい、と相槌を打って床に投げ捨てられたワンピースを拾う。ザップはクローゼットに入っていた自分の服を着ているようだったが、こいつがマメに洗濯するタイプなわけがないので、どうせそれもこの家の妻が洗ったモンなんだろうな、と思うと、正直ドン引きである。重い腰を上げて、玄関にある乱雑に脱ぎ捨てたパンプスにもう一度足を収める。
「靴履いたら下降りてろ。すぐ行く。」
アパートの外階段を下りてザップを待っていると、新しい煙草をくわえて煙をくゆらせながらザップがすぐに降りてくる。…こんなパンプスを履いていてなお、私より背丈のあるザップは、…キモイ。こいつがチビで短足で包茎だったら一生詰ってやれるのに、見た目だけは悪くない。見た目だけは。クソが。
「あ?何見てんだよ雌ザル。」
「…アンタのムスコは随分短かかったなって思い出してた。」
「いい加減テメェ殴るぞ。」
 二日酔いでグラグラ煮立った頭を押さえながら歩く。ザップはずかずか長い脚で歩いていくが、パンプスでよろよろ歩く私を時折振り返って、歩幅を狭めてまた歩き出す。
「そういやこれどこいくつもりよ。」
「ダイアンズ」
「ザップの奢りで?」
「俺金持ってねェし」
「最悪じゃん…またビビアンにツケるの?」
「俺の愛馬が勝ったら払うって言ってあんだよ」
「ホントクソね…。」
 歩きの早いザップに小走りで着いていき、やっとこさダイアンズダイナーの前に着いた。そのとき、目の前の道の少し先のあたりで、聞きなれた声を耳にした。
「…あれ、ザップさんとさん。」
 目の前にいたのは、ツェッド君とレオ君だった。ダイアンズダイナーの前でライブラ若手メンバーが図らずも勢ぞろいしている。全員二日酔いで青い顔をしていることはともかくとして…。
「二人とも昨日大丈夫だった?」
「あ、おかげさまで…僕もツェッドさんも家には帰れました。」
「まあそのツラ見る限りお前ら二人とも夜はトイレとお友達だったんだろうな。」
「あなたが飲ませすぎるからですよ!」
「あーキイキイ言うな頭に響く…」
 4人でダイアンズの中に入ると、ビビアンに「うわっあんたら揃いも揃って土気色!二日酔い!?」なんて笑われて、二日酔いに効くとかいいながら小さなクラムの入ったパスタを4人分出してくれた。眉唾な感じはしないでもないけど、皆もくもくと食べていた。コーラをすすりながら、思い出したかのようにレオ君が呟いた。
「そういや、昨日帰りにスティーブンさんに会いましたよ。」
「そうなの?」
「はい。途中まで送ってってもらったところから、ツェッドさんと歩き出してすぐくらいのときに。それで、何してたんだって聞かれたんで、4人で飲んでたって言って。…ああ、そう、さんがどこにいるのかって聞いてました。」
「え、私?」
「そうそう。で、ザップさんと一緒に行ったって言ったら、面白そうだから行ってくる、って。」
「はぁ?何言ってんだあの中年。」
「え、じゃああのときにいたのって…。」
 …3人で飲んでいた覚えのある相手は、スティーブンさんだったのか。あの人ならあのあと私たちがどういうアレでああなったのかわかるのかもしれない。いや、どちらかというとこの事情を知られるのもどうかと思うから会いたくない部分もあるけど…。ちらりとザップの方に目配せすると、ザップも「あいつに聞くぞ」といった目線を送ってきた。まあ、そうなりますよね…。
「何ですか、あの後スターフェイズさんに会われたんですか。」
ツェッド君の訝しげな物言いに、私は慌てて「そうそう、あの後会って一緒に飲んだからあとが気になって〜」と適当に言葉を続けた。まぁ、会っているのはおそらく嘘ではない。ただ、記憶が全くないことを除けば全く、問題ない。
 4人でご飯を食べたあと、気分が悪くなりながら必死にせっかく食べたダイスパゲティーを戻さないように帰路についた。家でベッドに転がりながら、スティーブンさんに連絡すると、『俺もあの後どうなったのか聞きたかったし、夜に飯に出ようか。ザップも呼んでいいよ。』と返信が帰ってきた。この人が私とザップの失態を知らないでおいてくれと祈るばかりである。



「や、二人とも。二日酔いは治まったかい。」
 高そうな香水の香りをさせた男は、まぁほぼ毎日見ている顔とはいえ、いつも通り男前で、いつも通りザップよりも長い脚を端正に振り回して登場した。
「スターフェイズさんは酒まわんなかったんすか…。」
「はは、俺は君たちと違って下戸なんでね。セーブしてたよ。」
 近場のバーに3人で入ると、カウンター席に私を真ん中にして座った。どうやらこの店はスティーブンさん御用達といった様子らしい。マスターが気さくにスティーブンさんの横顔に話しかけている。
「でも、悪かったね。結局君たちの面倒を見るわけでもなく、途中で帰ってしまって。」
「!…いえ、いいんです。私たちもあの後ちゃんと家に帰られたので。」
 よかった。この口ぶりから察するにスティーブンさんは私たちのあの後の流れを知らなさそうだ。泥酔してやらかしていても関係者にはそれをおくびにも出さない私たちの強かさには賞賛の不揃いな拍手を送りたい。横では安心しきったザップが性懲りもなく今日もウイスキーをロックで上機嫌に飲み下している。あれ、これ昨日も見た気がするんですけど。
「ザップは今日もよく飲むなぁ。君も飲めばいいさ。ここは僕がお代をもつから。昨日のお詫びにね。」
 そう言って私にウインクするスティーブンさんマジでスターフェイズ。ザップとたった?6つしか違わないのにこの余裕。ザップのあと6年経てばこれくらいスマートで知的な男になるのかしら。それはそれでちょっといいのかも。ああでもその頃のスティーブンさんは38歳?ああ、きっともっともっといい男になっているんだろう。私はシミとかクマとか皺とかで悩まされいそうなお年頃だけど…。私も程よく酔いが回っているらしい。隣の色男から注がれた酒に酔わされて、延々とそういったしょうのない隣の花二人に思いを巡らせ、ザップのくだらない話を肴に酒を飲んだ。

って彼氏いるんだっけ?」
 空のボトルが二本私たちの前に並んで、私も顔が火照って赤くなってきた頃に、顔色も声色もなにひとつ変わらない男が、私の隣でそう独り言のように聞いた。
「ハァ〜〜?スターフェイズさんバカ言ってんじゃないすよこいつなんかにいるわけ」
「いや〜いましたけどだいぶ前に別れちゃいました。」
肩を組んで私の頬に人差し指を突き立てて鬱陶しいザップを払いのけてそう言うと、「あぁ、そうだった。昨日も聞いたね。」と微笑を浮かべるスティーブンさんは、とんでもないことを言い始めた。
「昨日も言ったけれど、俺は君とザップが付き合っていると思ってたんだ。
もザップも酔うといつも僕に、『見た目はいいけどクソ野郎』ってお互いがお互いのこと言ってくるからね。カップルの痴話喧嘩を聞いてるようで本当にムカつくことこの上ないよ。」
私は咄嗟に持っていたグラスを置いて、両手で突拍子もない(こともない)ことを言う色男の胸倉を掴む。
「なななな何言ってるんですかスティーブンさん!」
「ははは、事実じゃないか。」
この男、わかってて言ってるんじゃないのか、もしかして。すると、ほぼほぼ泥酔した隣のサルが再び私の腰に絡みつくように手を伸ばしてきた。
「何だテメェ俺のこと普段ボロクソ言っておきながら俺のことイケメンだって認めてんじゃねーかァ〜もっと日頃からお前も素直になれば」
「ザップも普段から君のこと『顔もスタイルもいいしかわいいのに性格が素直じゃないから』とか言っててね。」
 それを聞いたザップは私と同じように慌ててスティーブンさんの胸倉を掴んだ。二人して色男をリンチしようとする貴重な構図だ。
「うおおおお何を言ってんすかアンタは」
「事実だろ。それなら俺がを貰っていいのかい?」
「えっ」
 一瞬で顔が火が付いたかのように熱くなった。彼を掴んでいた手も急に生気を失って、離した手を今度はスティーブンさんが握ってくる。
、これからウチへ来るだろ。」
「ハァ?アンタ、頭沸いて」
「俺は本気さ。俺のところに来るなら、いつでも歓迎だよ。こんな男よりとびっきりいい夜を過ごさせてあげられると思うけどね。」
 ザップに手を離すよう氷のように冷たい目線を送り、ゆっくりと手を離したザップの目の前で襟を正す。この人がこんなこと言うわけない。けれど、私の心臓はそんな思いとは裏腹にけたたましく、忙しく騒ぎ立てていた。
「あの、スティーブンさん」
「君がきっと来てくれるって信じているよ。じゃあ、僕はこれで」
 私の唇に軽くキスをして、隣国の王子さながらの物腰で、支払いだけ済ませてスティーブンさんは店のドアの外に消えていった。私はその瞬間はその場で起こったことがわからないまま、椅子に座っていることしかできなかった。はっとして、そのままグラスを置いて店の外に走り出る。どっちに行ったのだろう。…いや、あの人も酔っていたのか。私が追いかけたところで…。
 酒とさっき言われた言葉が脳内でごちゃまぜになって、気持ち悪い。ぐるぐると頭の中を回って、変な感覚だ。ただ、驚きで酔いは少し醒めかけている。目の前で汚れたネオンのプリズムがきらきら私をひたすら懸命に照らしている中、私は立ち尽くしていた。

「オイ」

 突然に、後ろからドアベルとともにザップが私に声をかけた。すぐに振り返ると、先ほどのようにへべれけな様子はなく、馬鹿なことを言って茶化すような雰囲気もなかった。ただ、いつもより低い声。さっきの男のように、冷たく光る眼差し。すこし怖くなって私は、一歩だけ後ずさりした。
 ザップは私の顔を見下ろして、ゆっくりと呟いた。

「お前、帰んのかよ。」
「え…。」

 ザップは私の腕を掴んで引き寄せ、キスをした。酒臭い。性急に唇をこじ開けてくるザップの舌が、先ほどまで飲んでいたのであろう強烈なウイスキーの香りをうつす。後頭部を大きな手で抱え込んで、私の唇に何度も噛みつくようにして、唾液がもうどちらのものかわからなくなるくらいに、キスをする。息も絶え絶えになるくらいのキスを私に浴びせた後、ザップは私の目を抉るように見て、こう言う。

「あのいけ好かねぇ男のとこに行くのかっつってんだよ。」

 は?と声を上げる前にザップの馬鹿力によって路地裏に連れ込まれる。また乱暴なキスで動きを封じられ、壁に押し付けられる。なんなんだ、この男。どう考えても、スティーブンさんの発言にまんまと中てられてるだろ!?私は冷静な頭でそう考えながらザップを押し返そうとするが、力が強すぎてそんなことできるはずもなく、されるがままになってしまっていた。私の口を蹂躙していたザップは、今度は私の脚の間に膝を割り入れ、胸に手を伸ばし、首筋に噛みつくようにキスをし始めた。こそばゆい感覚が次第に、痺れるように感じる。どう考えてもまずい、この状況、この男。

「…ハァッ…ザップ、ちょっ……待っ……。」

 今までのどんな男としたよりも大胆で、野性的なキス。息を荒げて、とって食われそうなくらい必死に噛みついてくる。どう考えても酔いすぎて我を忘れているとしか思えない。そんなザップと二度もヤるのは嫌だし、昨日の二の舞にはなりたくない。私は思いっきりザップの頭に自分の頭をクリロナ並みの勢いでぶつけた。

「ッテェ!!頭突きはねェだろ!」
「っ……はぁ…っアンタね…同僚を…行きずりの女扱いすんじゃないわよ…!」

 私の頭突きによろめいたザップは、その動物じみた双眸で私を睨む。闇に光る銀色の目の中の黒い瞳孔が嫌に私を貫くものだから、つい顔をそらした。ザップはなおも私の腕を掴んでビルの冷たい壁に私を縫い付ける。

「…お前ぁ俺の顔とナリが好きなんだろ…なら細かいこと考えんなよ。」
「…う…そりゃアンタの見た目はカッコいいわよ!でもザップは私のこと別に好きでもなんでも…!」

 コイツは見た目が許容範囲なら誰でも抱ける男なのは分かっている。でもそういうことじゃない。私だって見た目がいい男なら一夜を共にして後は全くの他人のようにしてふるまうようなこともあった。けど、それでもザップは同僚だし、…。

「なら俺がお前のこと好きだっつったら満足なのかよ!?」
「…ちが…。」

そういうのが欲しいんじゃない。この男とどうにかなりたいという欲があるわけでもない。そうじゃないのに、私は、ザップに何を求めているんだろう。

「悪ィがそんなガキみてーなこと言うつもりはねぇ、けどな!」
ザップは私を壁に押し付けたまま、私の顎を指で掴んで、自分の顔に向きなおらせて、吠えるようにこう言った。

「テメーが俺以外の男に抱かれんのはムカつくっつってんだよ!」

 心臓がぎゅっと縮こまって、ブツリと理性の糸が切れた音がした。
それからは、キスをして、セックスして、家に戻ってまたセックスをして、同じ動物になって、今だけが至上の喜びになったように息をし続けた。
また明日の私が後悔しようと、昼間のザップが全てを忘れていようと、全部全部忘れて、今だけはこの不用心な独占欲に酔わされてやってもいい。


一切合切はで返事

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